香港で会社を設立する時や、設立後の運営時に必要となる住所には「会社登記住所」と「実際の営業住所」の2種類あるのをご存知でしょうか？一見すると同じように思えるかもしれませんが、実はこの二つには明確な違いがあり、その違いを理解しておくことは、香港でのビジネスを円滑に進める上で非常に重要となります。今回は、香港での会社登記住所と営業住所の違いとそれぞれの役割について、分かりやすく説明していきましょう。
まず、「会社登記住所」とは、文字通り、香港の会社登記所（Companies Registry）に届け出る、法的に定められた会社の公式な住所のことです。これは、香港の会社法によって、すべての香港法人が必ず保有しなければならないと義務付けられており、この登記住所は、政府機関からの通知や、税務局、あるいは裁判所からの重要な書類を受け取るための唯一の公式な窓口となります。そのため、この住所は送付された郵便物を確実に受け取れる場所でなければなりません。多くの会社は、信頼できる会社秘書役や専門のサービスプロバイダーの住所を登記住所として利用することが一般的です。
一方「実際の営業住所」とは、会社が実際に日々の事業活動を行っている場所のことを指します。これは、顧客との打ち合わせに使ったり、従業員が勤務したりするオフィス、あるいは商品を保管する倉庫などに使用します。この営業住所は、会社のパンフレットやウェブサイト、名刺などに記載されることが多く、会社の「顔」として機能します。実態として、実際の営業住所は複数存在することもあります。例えば、本社が香港島にあり、倉庫が九龍にあるといったケースです。また、リモートワークを導入している会社では、物理的なオフィスを持たない会社も増えてきており、その場合は実際の営業住所が存在しないということもあり得ます。
ここで重要なのは、会社登記住所と実際の営業住所は、必ずしも同じである必要はないという点です。多くの海外の会社や中小企業は、コストを抑えるために、物理的なオフィスを持たずに事業を運営しています。しかし、会社登記住所は法律で義務付けられているため、どこかの住所を届け出る必要があります。そこで登場するのが、「バーチャルオフィス」や「住所貸し」といったサービスです。これらのサービスを利用することで、物理的なオフィスを借りることなく、合法的な会社登記住所を確保することができます。
バーチャルオフィスサービスは、単に住所を貸してくれるだけでなく、郵便物の受け取りや転送、電話対応、さらには会議室の利用といった付加的なサービスを提供している場合も多く、海外にいながらにして香港に会社を設立し、実務的な業務を遠隔でコントロールすることが可能になります。特に、初期投資を抑えたいスタートアップの会社や、まずは香港市場の様子を見たいという会社にとって、これらのサービスは非常に魅力的です。
しかし、注意すべき点もいくつかあります。まず、バーチャルオフィスを登記住所として利用する場合、そのサービス提供会社が信頼できるかどうかを十分に確認しなければなりません。政府からの重要な書類や郵便物が確実に手元に届くように、郵便物の転送手続きが迅速かつ正確に行われるサービスを選ぶ必要があります。万が一、重要な書類が届かず、法的な手続きを見過ごしてしまった場合、会社の運営に深刻な影響を与える可能性があります。
また、銀行口座の開設も考慮に入れておきましょう。香港の多くの銀行は、口座開設時に会社の事業実態を確認する傾向が強まっています。バーチャルオフィスを登記住所として利用している場合、物理的なオフィスがないため、事業の実態を証明することが難しいと判断されることがあります。したがって、口座開設がスムーズに進むよう、事業計画書を詳細に作成したり、なぜバーチャルオフィスを利用するのかを明確に説明したりするなど、事前の準備が大切になります。
このように、会社登記住所と実際の営業住所は、それぞれ異なる役割を持っています。会社登記住所はあくまで法的・行政的な目的のためのものであり、事業の実態を示すものではありません。一方、実際の営業住所は、事業活動を行う場所であり、会社のビジネス上の顔となります。この二つを使い分けることで、コストを削減しつつも、法的な要件をクリアし、柔軟なビジネス展開が可能となります。
最後に、会社の規模や事業内容が拡大し、物理的なオフィスが必要になった場合は、登記住所を実際の営業住所に変更することも可能です。この手続きは、会社登記所に変更届を提出することで行えますが、専門家である会社秘書役のサポートを得ながら進めるのがおすすめです。適切な住所管理は、香港でのビジネスを成功させるための基盤の一つとなりますので、法律をクリアしつつ、事業の実態に合わせた柔軟な住所戦略を立てましょう。
